「おれ、水泳嫌い。」「なんで?」「必要じゃないもん。海行かないし。」
H君は4年間の水泳学習で一度も浮けたことがありません。水中で歩いたことや走ることはしたことはありますが、泳ごうとしたり、浮こうとしたりしたことは一度もありません。
体育授業に苦手意識があり、ハードル走の授業では走らず歩き、ハードルは跳び越さず、横を通過する。鉄棒の授業では、鉄棒すら握ろうとしません。
水泳指導が始まると顔を水につけることができません。全体がバタ足やけのびを行うときには、走っている感じになります。私はそれを見ていて、Hくんは、普段から不安な気持ちが大きいことや水泳学習における「できた」の経験が少ないことを感じました。
そこで私は大きく3つの手立てを考えました。
1 ペア学習
Hくんが友達とつながり、安心した環境の中で学習に向かえるように、ペア学習を行いました。ペアで補助やお手伝いを取り入れ活動します。カエル足の足の動きをお手伝いしたり、泳いでいるときに「パッ、けるーーー」という口伴奏を言い合ったり、ビート板を引っ張ったりしました。ペア学習を取り入れることで、お互いにアドバイスする声が自然と起こり、補助をすることで安心して学習に向かうことができました。Hくんは最初は嫌そうな顔をしていましたが、少しずつ泳げるようになってくるとペアの児童と仲良く話をしている様子や、友達の「できた」を一緒に喜ぶことができるようになりました。
2 スモールステップ
スモールステップを組みました。具体的には、ヘルパーやビート板を活用しました。今回は平泳ぎを行ったのですが、25mをいきなり目指すのではなく、まずはヘルパー・ビート板を使って25mを目指しました。レベル1をヘルパー・ビート板で25m。(ペアの友達がビート板を引っ張ってもよい。)レベル2をヘルパーのみで25m。レベル3を一人で25m。レベル4を、かき数をより少なく25m。としました。Hくんはヘルパーとビート板を使うことで、初めて浮くことができました。また、5時間目には初めて25m泳ぐことができました。
「先生、僕初めて25m泳げました。ヘルパーとビート板、一生使います。」
と、私に嬉しそうに言ってきた顔は今でも忘れません。また、ペアの子もとても喜んでいました。浮いたことが一度もない子が、25mも泳げたのです。嬉しいですよね。
3 個別の配慮
今回は平泳ぎを取り組みましたが、Hくんには自由およぎを認めました。(本人には特に言いませんでしたが、ペア児童にはこっそり伝えました。)初めて浮けた子に平泳ぎを教えるのは、とても難しいからです。Hくんは、手にはビート板、腰にはヘルパー、足はバタ足で、という状態でした。よって今回は、長い距離を泳ぐことを目指し、自由泳ぎを認めました。
Hくんは、今まで水泳が大嫌いでした。今回授業が終わった後に話をしてみると、「ましになった」と答えてくれました。大嫌いと言っていた子が「まし」になってくれたのは、教師としてとても嬉しいことです。まずは「安心感」、そして「できる」ことが「運動好き」につながるのだと、改めて感じました。
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